「コロナ時代を生き抜くための、心理学を活かしたリーダーの仕事術」

1.コロナ時代の経営層・リーダーが身につけるべきもの

この原稿を執筆している2020年の5月上旬現在、民間の調査会社の予測で1~3月のGDPの下げ幅が年率換算で最大6%台のマイナスとなっています。
もっとも、この数字はあくまで、緊急事態宣言前の状況下のものです。
緊急事態宣言後の4~6月期のGDPはさらに落ち込み、20%を超える厳しいものになるという予測も出ています。
これはGDPデータをさかのぼれる1955年以降で最大の落ち込みです。
消費も設備投資も輸出入も壊滅的な打撃を被る予測となっており、日本経済が未曾有の経済危機に突入していることは明らかです。
実際連日のニュースでも、「戦後最大の恐慌」「業績悪化」「倒産危機」などの暗いワードが飛び交っています。

 

しかしながら、かかる状況下であったとしても、我々はいつまでも下を向いているわけにはいきません。
経営層・リーダー層としては、コロナ状況下の客観的な現状は事実として捉えながらも、
ややもすると落ち込みやすいメンバーのモチベーションを下支えするようなリーダーシップを発揮しながら難局を乗り切る必要があります。

当研究所が経営層・リーダー層に対して研修・セミナーを行う場合、優れたリーダーに必須の三大要素をマスターしていただくことを主眼に置いています。
1つめが、「聴く力」、2つめが「伝える力・承認する力」、3つめが、そもそもの土台となる「魅力・人間力」です。
今回はとりわけ、「魅力・人間力」にスポットをあてます。
「魅力・人間力」はさらに、①安心力、②柔軟力、③実行力の3つの項目に細分化されます。
いずれも、後天的なスキル(技術)なので、どなたでも身につけることが可能です。
それぞれの内容と、身につけるにあたってのポイントをみていきましょう。

2.安心力

人間の脳は未来の取り扱いが苦手といわれています。
先行きの見通しが少しでもぼやけてハッキリしないと、たちまち不安になります。
コロナ時代ではこれまで以上に先行きの見通しがつきづらく、職場のメンバーが一層不安に陥るおそれがあります。
不安な気持ちは伝染するため、職場の雰囲気、士気が低下してしまいます。
コロナ時代のリーダーは、部下、メンバー達に「安心感」を与えて、リードしていく「安心力」が求められます。

(1) ポジティビティ比

ポジティブ(前向き)な言葉とネガティブ(後ろ向き)な言葉のバランスを変えるだけで、仕事上のパフォーマンスがあがることが、心理学の研究で判明しています。

ノースカロライナ大学の研究によると、職場で話される会話のポジティブな言葉とネガティブな言葉の割合(ポジティビティ比)を調べたところ、
その比率が3対1以上でポジティブな言葉が多いチームは、ビジネスで高い利益をあげ、チームメンバーの評価も高いことがわかりました。
他方、3対1を下回ったチームは会社への愛着が低く、離職率も高まりました。
さらに、最も業績の高いチームでは、ポジティビティ比が6対1まで達していました。
このように、仕事でのパフォーマンスをあげるためには、ポジティブな言葉がネガティブな言葉の少なくとも3倍以上必要ということです。

ところが、コロナ時代ではその客観的な状況、環境などから会社、職場に関する悪口、愚痴、あきらめの言葉などネガティブな言葉が職場に蔓延してしまう懸念があります。
そこで私は、リーダーが率先して「大丈夫、なんとかできる!」といった言葉を職場で口ぐせにすることを提唱しています。
「大丈夫、なんとかできる!」などのポジティブな言葉を「意識的に」事あるごとに口にして、メンバー達を安心させてあげてほしいのです。

但し、「大丈夫、なんとかできる!」と表面的には前向きな言葉を発しても、その態度がオドオドしていたり、自信のない様子だったりすると、
他のメンバーたちはそれを敏感に感じとって効果が半減してしまいます。態度などの非言語は、言葉(言語)の内容自体よりも何倍も影響力が強いのです。
 そこで、リーダーには、心の底から「大丈夫、なんとかできる!」と実感していただきたいのです。
確かに、コロナ時代では会社をとりまく状況はこれまで以上に厳しいものになるかもしれません。
しかしながら、厳しい客観的状況は変えることが難しくても、その状況を「受け止める」リーダーの主観は、ご自身で変えられます。
訓練次第で容易にコントロールできます。
これまでとは「視点を変えたり」、「柔軟な思考」を心がけることにより、困難な状況下でも心底「大丈夫、なんとかできる!」と思うことは可能なのです。

(2)未完の円

当研究所の心理カウンセラー「アペコ」(ウサギのイラスト)が持っている2つのミカンをご覧ください(図1-①・②)。
どちらのミカンが印象に残ったでしょうか?
おそらく多くの方が、欠けているミカンが気になったかと思われます。
そうなんです。
人間というものはどうしても「欠けている部分」に焦点があたってしまうものなのです。
だから、他人の失敗や思い通りにいかない環境・状況などの「足りない所」ばかり気になってしまいます。
これは心理学で「未完の円」という有名な学説です(当研究所では、楽しく学んでいただきたいという想いから、ミカン(蜜柑)と未完をかけて表現しています)。

図1-1
図1-①
図1-2
図1-②

この「欠けている所」が目についてしまうのは、いわば人間の本能ともいえるものです。
しかも、我々は幼い頃から「欠けている所」「足りない所」「無いもの」ばかり探してきました。
このため、知らず知らずのうちに「無いもの探し名人」になっているのです。
「人(自分・他人)」「モノ」「出来事」の「無いもの」に瞬時に焦点があたるのです。

(3)視点を変える

コロナ時代では、企業を取り巻く環境が一変します。
これまでのような対面営業がままならない、取引先の業績悪化で取引額が縮小される、テレワークを導入したもののメンバー間のコミュニケーションが上手にとれないなど、「欠けている所」に焦点を当てたらキリがないかもしれません。
 「欠けている所」にいくら焦点をあてても事態は好転しません。
そればかりか、不平不満、不安などが増長し、やる気が削がれます。どんどん状況は悪くなるばかりです(図2-①)。
何かしらの行動、対策を打たないと状況の打開は望めません。
ものごとは多面的です。
「陰と陽」と表現されるように必ず二面性があります。
本能、クセとして「欠けている所」に焦点があたってしまうなら、「意識的」に「足りている所」に焦点をあてる必要があります。
そう、「意識的」に「視点を変える」のです。
「大丈夫、なんとかできる!」という心持ちを自分のベースとするためにも、先ずは「足りている所」を見るところからスタートしましょう(図2-②)。
「大丈夫、なんとかできる!」の精神、言葉でメンバーのみなさんに「安心感」を与えながらリードしていって下さい。

図2-1
図2-①
図2-2
図2-②

3.柔軟力

(1)見方の固定化は脳のクセ

「欠けている所」に焦点が当たってしまうのは前述の通りです。
その対処として、「足りている所」に焦点を変えるというお話しをしました。
これに加えて、そもそも「欠けている所」に対する「見方」 「捉え方」自体を変えることも大切です。

「欠けている所」は「ピンチ」ともいえます。
「ピンチ」をそのまま「危機」と思い込むと、事態を好転させることは難しいです。
「危機」を憂い、ただただ恐れるのみでは、前に進めません。
それどころか、成功・成長の機会を失ってしまうおそれもあります。

例えば、当研究所でも研修・セミナー、及び打ち合わせ・会議をどんどんオンライン(ZOOM等)に移行しています。
確かに、オンラインによる研修・セミナーだと受講者の方の反応を掴みづらいなどの面もあります。
しかしながら反面、会場・受講生のキャパシティを気にせず実施することができるなどのメリットもあります。
また、打ち合わせ・会議もオンラインを活用すれば、移動の時間が短縮されるため効率的といえます。

これはあくまでも一例であり、必ずしも全てがオンラインに代替できるわけではないかもしれま せん。
しかし、オンラインに代替できない業務等であっても、必ず成功の種は隠れているはずです。
コロナ時代では、オンライン化、テレワークをはじめ「業務効率化」のチャンスであることは間違い ないと思います。

人間の脳は、他の臓器よりもエネルギーを消費するため、原則「省エネ」モードで働きます。
モノ  の見方も固定的でレッテルを貼りやすいのです。
このため、現在のコロナ状況下を単なる「ピンチ」 「危機」とレッテルを貼ってしまうと、そのレッテルが固定化し、そこで思考がストップしてしまい  ます(図3-①)。

(2)大ピンチは大チャンス

コロナ状況下を「業務効率化」もしくは「新規事業」の「チャンス」「機会」と捉えると、何らか の新しいアイディア、光明が生まれやすくなります。
リーダーには、「ピンチ」を「機会」とみなす 「見方」、180度コペルニクス的に転回するような「柔軟な思考」を心がけていただきたいと思います。
危機の「機」は機会の「機」でもあり、紙一重です。
 コロナ時代は「大変」な時代といわれています。しかし、大変とは「大きく変われる」機会と捉え ることも可能なのです。
とするならば、大ピンチは大チャンスともいえるのです(図3-②)。

(3)柔軟な思考

コロナ時代のリーダーは、脳の「固定化しやすい」、「レッテル貼りしやすい」という傾向を念頭に 置きつつ、いかに「柔軟な思考」ができるかが鍵になります。
「柔軟力」を身につけるためには、先ずは意識的に「見方」を変えることです。

図3-1
図3-①
図3-2
図3-②

4. 実行力

(1)なぜ「できない理由」ばかりが目につくのか

「足りている所」に視点をあてるとともに、「ピンチ」それ自体を「チャンスの種」と捉えることろにより、何か新しいアイディア、光明が見えてきたら、いよいよそれを実行する段階になります。

ここで、あらたに注意する点があります。それは、新しい挑戦を行おうとする際に「できない理由」の方が頭に浮かびやすいということです。
「でき 「できない理由」ばかりに目がいってしまうのは、仕方がない面があります。
原因の1つは、前述の「欠けている所」に焦点があたりやすいことが挙げられます。
もう1つは、脳の性質である「ホメオスタシス(=恒常性維持)機能」です。
体温や心拍数など、人間の内部環境は一定を好みます。
つまり 本能的にわれわれは「昨日と変わらない状態」を好む生き物なのです。
 誰でも必ず「新しいことに対する抵抗感」が備わっています。
このように、新しい行動を避けるため、「なるべく遠回りをさせよう」「できれば止めさせよう」と脳は働くのです。
せっかく良いアイディアを思いついても、その後「できない理由」ばかりに目がいくのは、脳のクセなのです。

(2)「できる理由」に目を向ける

だからこそ、ここでも「意識的」に「できる理由」に焦点を向ける必要があります。
仮に社内の議論が「できない理由」ばかりに傾いたとしても、リーダーは、あくまで「できる理由」に焦点を当て続けまない理由」「止めておいた方がよい理由」を検討すること自体は必要かもしれません。
しかしながら、「できない理由」ばかりにこだわり過ぎると、新しい挑戦、新しい計画が頓挫してしまうおそれがあります(図4-①)。
「できる理由」に着目して新しいアイディアを「実行」していく「実行力」こそ、コロナ時代のリーダーが身につけるべきスキルといえます。

図4-1
図4-①
図4-2
図4-②

5.まとめ

以上みてきたような「安心力」「柔軟力」「実行力」の3要素からなる「魅力・人間力」を備えたリーダーとして、メンバーをリードしていって下さい。
 しかし、3要素の習得を阻むものがあります。われわれの脳のクセです。逆境に直面した際、
「無意識」に、「欠けている所」を見たり、「固定化、レッテル貼り」したり、「できない理由」ばかりが目につくこととなります。
ですので、まずは、①「足りてる所」を見る、②「柔軟な見方」を心がける、③「できる理由」に目を向ける、の3点を「意識的」に行って下さい。
このように「視点(焦点)を変える」「見方を変える」意識づけをすることが、出発点となります。
継続していただければ、そのうちに特に意識しなくても様々な視点からモノゴトを見たり、柔軟に捉えることができるようになっているはずです。

 

継続、習慣化のコツの1つは、欲張らず「小さく分割」することです。
前述の通り、われわれの脳には「新しいことに対してものすごく抵抗するクセ」があります。
脳のクセなので、 単なる根性論や精神論などでは乗り越えられません。脳に「負担だ」と思われない程度に「小さく」始めることがコツとなります。
「視点を変える」ことを習慣化するのにオススメの方法があります。
当研究所で「ラッキーノート」と名付けているものです。
やり方はカンタン。
毎日その日あった出来事の中で「ラッキー(又は嬉しかったことなどでもOK)」をメモしていくだけ。
箇条書きで結構です。
他の人に見せるわけではないので、思い悩まず書き留めてください。
「視点(焦点)」を変える方法として超オススメの方法ですので、ぜひトライしてみてください。
ノートに書くのはどうしても面倒という方は、寝る前ベッドに横になった瞬間にその日のラッキーな出来事を3つ頭の中で挙げてみるのでもOKです。
この方法でも効果は期待できます。

最後になりましたが、コロナ時代の今だからこそ、科学的な根拠に基づいた心理学で、
みなさまを、みなさまの会社を、日本を、元気にしていきたいと思っております。
「大ピンチは大チャンス!」の精神で一緒に頑張っていきましょう。




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