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プロフェッショナルエデュケーションセンター(PEC)では、毎月、人気クリエイターを招いて講座を開催しています。フォーラムや、ワークショップ、セミナーを通じて得られる彼らの考え方や方法論は、スキルアップを目指す方々にとって、ためになるものばかりです。ここでは実際に行われた講義の内容をレポート。
参加者の感想や今後の開催情報などもチェックして、興味のある方はぜひ参加してみてください。
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講義はまず「デザインとは何だと思いますか?」という伊藤氏の投げかけから始まった。デザインの善し悪しは、時としてデザイナーの持つ感覚や感性、つまり“わかる人だけがわかるもの”と、ひと言ですまされてしまいがち。ところが最近の大脳生理学や遺伝子学などを基にした研究では、誰もがデザインに関わる感性や感覚などを持ち合わせており、それが大脳の働きに関係していることが解明されてきていると語る。
「感性とは大脳の行う視覚情報処理であることがわかっています。また視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚といった感覚器の特性にも関連があるようです。脳は感覚器から取り入れた情報を重要度に照らし合わせながら、常に整理(グルーピング)しています。こうしたことから“デザインは感性・感覚の賜物である”という認識は誤りであって、脳の機能から説明されるのではないかと考えられています。つまり先天的な能力、個人の持つ才能だけがデザインの感性ではないのです」
先天的なセンスの要素が大きいと思われ、アーティストやデザイナーにすべてを任せてしまうという現在のデザインワークの流れも、こうした大きな誤解から生まれていると解く。
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「デザインの現場で多い“感性の問題”がトラブルになるのは、(制作側が発注側に対して)説明を放棄していることから始まっています」と伊藤氏は指摘する。
デザイナーなら「どんなに説明しても、クライアントや上司がわかってくれない」という状況を経験したことが少なからずあるはず。その問題も実際は、きちんと論理的に説明することで解決できるという。
「そのための方法が、大脳生理学や遺伝子学などを含めた認知学に落とし込んで『デザインを医学のように体系化していくこと』です。医学のように体系化できれば、クライアントや上司への説明がしやすくなり、評価も合理的になります。結果として、お互いの理解が深まることにもなるのです」
さらに講義ではデザインの語源からデザインとは何かを解説していく。
「デザインとは英語では『論理的な設計をする』という意味を持っています。語源であるラテン語では『計画の記号化』という意味。日本語では『色・カタチ・模様・配置に美的工夫をする』という意味合いでとられていることが多い。 この“美的工夫”があいまいで、わかりにくい。デザインとは設計することだと心がけることが大切です」
これをふまえた上でデザインにおける情報整理のポイントを説明。また現場での情報整理法を実感するため、仕様書を作成した上で、商品の背景や留意点をつかんでデザインを作る方法と、その結果のデザインを比較して見せた(図A)。さらに講義は、デザインの科学性を知るため、16世紀のルネサンスにもおよんだ。
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(図A) |
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【背景】
●ストーリー
山田フルーツという大手フランチャイズ果物店がフランス産の洋梨を大量輸入したので、
全国の店内に貼るポスターをつくることになった。
●留意点と情報整理
1.洋梨は、まだ消費者にとってなじみがない |
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入荷告知は当然ながら、商品の特長や
価値づけが必要となる |
2.山田ブランドは良品廉価だと知らせたい |
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商品価値を知る女性に認められることが重要 |
3.これをきっかけに利益率のいい顧客の
来店率を高めたい |
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企業イメージの改善がないと売りにくい |
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続けて、脳の扱う情報の流れや特性に触れ「(脳では)文字は映像化され、映像は文字化されながら相互互換で覚えられている」、「脳はグループ化されたデータを用いて、相対比較で判断する」といった脳の働きを披露。相対比較の判断では錯視(生理的な視覚の誤認)について述べ、デザインに利用できる代表的な8つの錯視効果を紹介した。さらに相対比較を用いたデザイン手法として、「Ink Point効果」も例に挙げて説明した(図B)。
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(図B) |
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大きさは目立たせる絶対条件ではない=常に相対グルーピング比較で情報は認識される |
青いシャツより、白いシャツに青いインクの付いているほうが目立つ。大きさは目立たせる絶対条件ではなく、常に相対(グルーピング)比較で情報は認識される |
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「デザインはコントラストがあってはじめて目立つ。大きさは絶対条件ではありません。一番重要なのは「コントラスト」と「配置」。これは脳が行う情報のグループ化と深く関わりのあるものです」
また伊藤氏はビジネスの観点から制作物を「表現系書類」と「実務連絡書類」として分類する考え方とその作り方の説明も行った。デザインで用いられる表現系書類では「どのように伝えられるか?」が重要で、コツは英語の持つ言語機能を利用することだと説く。最後にレイアウトの基本として3つの型を取り上げて紹介し講義は終了した。
伊藤氏の講義は内容が多岐にわたるにもかかわらず、プレゼンチャートを豊富に使用していたこともありよく理解ができた。そのそれぞれに感心しながら、急いでメモを取りつつという、とても濃い内容の1時間半。参加者からは「デザインワークで何となく感じていたことが、論理的・科学的な根拠で説明がつくように思った」「情報整理の大切さを再確認することができた」など各自の仕事にフィードバックできるものを手に入れられた様子。
「この講義を通してコミュニケーションの技術的な方法論を身につけることができます」と伊藤氏が語っていたように、デザイナーだけでなく、クライアントとして仕事を発注する人や企画制作者など、およそクリエイティブ業務に関わっている人たちにとって「科学的にデザインをとらえること」は現場でのやりとりに役立つはず。
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感想
・予想外の内容で良かった。普段無意識で作っていることと「デザイン」が同じだという講義内容が興味深かったです。
・もう少し時間をかけて受けたいセミナ−だと思いました。
・非常に内容の濃いものを聴かせていただき、ありがとうございました。息つく暇もないほど、貴重な情報がつまっており、久しぶりに集中力全開で拝聴しました。
・普段なんとなく感じている考え方や手法論について、体系だって再確認することができて、とても有意義だった。もっと詳しく知りたいことが多かった。
・デザインとはなにか、美しいと感じるものも体系化されているなど、イメージとしてしかとらえていなかったのですが、理解できて面白かったです。仕事にうまく役立てたいです。
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講師から
高度情報時代に生きる私たちは、毎日の生活の中で会得した「情報価値の審美眼」を自然に利用しています。しかし「モノとしての性能は良いのだろうけど、デザインが今ひとつなのが気になる」、「企画の趣旨は理解できるが説明方法や言葉に魅力がなくて、どうも納得できない」といったように、いざ自分で作ったり、判断するとなると自信が持てないという方も多いのではないでしょうか。おそらくその理由は「デザインや表現について学校で学んだこともないし、自分に作る才能もない」というところだと思います。けれどもそれは「美的感覚や文章の善し悪しは才能の為せる技だ」という社会的な誤解が生んだ意識であり、デザインや表現のノウハウの多くは科学的法則によって成り立っているのです。この講義では最新の大脳生理学や遺伝子学を基に「人が感動する時の原則」、「人が理解する時の原則」、「人が記憶する時の原則」が誰にでもわかりやすく理解でき、その具体的な活用方法を実務に応用しやすいようにメソッド化しているのが特長です。この講義を通して、デザインや文章における表現技術や仕事の依頼・管理、プレゼンテーションのコツなどが身につきます。また、科学的アプローチによって、グローバル化や高度情報化時代に必要とされるコミュニケーションの効率化を図るための改善方法も学ぶことができます。
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伊藤康倖(いとう・やすゆき)
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■東京芸大卒/筑波大学研究科
・電通映画社、たき工房(取締役)、ミノルタ(MDS-取締役)を経て現在、フリー。ニューヨークADC国際会員
■現在の主な業務
・企業のブランディング支援を目的としたブランディング ・ディレクション
・Graphic/Web全体を通してのクリエィティブ・ディレション、アート・ディレション
・企業の広報宣伝部門や経営企画部門に対する広告学とコミュニケーション学の指導/講議
■受賞歴
・朝日広告賞/毎日広告賞/日経広告賞をはじめ国内外での受賞多数
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